すき焼き 関東vs関西 - 二つの流儀、それぞれの美学

すき焼き 関東vs関西 - 二つの流儀、それぞれの美学

すき焼き 関東vs関西 - 二つの流儀、それぞれの美学

序章 - 一つの料理、二つの文化

すき焼きという名の、深い溝

日本人なら誰もが知る、すき焼き。しかし、関東と関西では、その作り方が根本的に異なることを、あなたはご存知だろうか。同じ「すき焼き」という名前でありながら、調理法、味付け、そして食べ方まで、まるで別の料理と言っても過言ではない。

関東風は「煮る」料理。関西風は「焼く」料理。この違いは、単なる調理法の差異ではなく、それぞれの地域が育んできた食文化の違いを反映している。本稿では、関東と関西、二つのすき焼き文化を徹底的に比較し、その背景にある歴史と美学を紐解いていく。

第一章 - 歴史的背景

すき焼きの起源 - 農具「鋤(すき)」から

すき焼きという名前の由来は、農具の鋤(すき)を火にかけ、その上で肉や魚を焼いたことに始まるとされる。江戸時代後期、肉食が禁じられていた時代に、庶民が密かに楽しんだ料理だった。

しかし、明治維新を迎え、文明開化の波が押し寄せると、肉食は解禁される。この時、関東と関西で、それぞれ独自のすき焼き文化が花開いた。

関東風の成立 - 牛鍋からの進化

関東では、明治時代に流行した「牛鍋」が、すき焼きの原型となった。牛鍋は、鍋に味噌や醤油で味付けした汁を入れ、牛肉と野菜を煮込む料理。これが進化し、甘辛い割り下で煮る現在の関東風すき焼きとなった。

関東風が「煮る」スタイルなのは、この牛鍋文化の影響だ。また、江戸っ子の気質として「手早く、簡単に」という要素も影響している。割り下を用意しておけば、後は材料を入れて煮るだけ。この手軽さが、関東で受け入れられた。

関西風の成立 - 本来の「焼く」を守る

一方、関西では、すき焼きの原点である「焼く」という調理法が、そのまま受け継がれた。鍋を熱し、まず牛脂を引いて肉を焼く。焼けた肉に砂糖と醤油を直接かけ、味をつける。この豪快なスタイルが、関西風すき焼きだ。

関西人の美学として「素材の味を活かす」「手間を惜しまない」という要素がある。肉を一枚一枚焼き、最高の状態で食べる。この丁寧さが、関西風の特徴となった。

東西文化の違いが生んだ、二つの流派

関東と関西の違いは、食文化だけではない。気質、歴史、商業文化、すべてが異なる。この違いが、すき焼きという一つの料理に、二つの全く異なるスタイルを生み出したのだ。

第二章 - 関東風すき焼き 完全解説

特徴 - 割り下で煮る、手軽さが魅力

関東風すき焼きの最大の特徴は、「割り下」を使うこと。割り下とは、醤油、砂糖、みりん、酒、出汁を合わせた調味液だ。この割り下を鍋に注ぎ、材料を入れて煮る。シンプルで、失敗が少ない。

割り下の黄金比

プロの料理人が使う、割り下の基本配合は以下の通り。

  • 醤油:200ml
  • みりん:200ml
  • 酒:200ml
  • 砂糖:大さじ4〜6(好みで調整)
  • 出汁:200ml(昆布と鰹節)

これを鍋に入れ、一度沸騰させてアルコールを飛ばす。冷めたら、保存容器に入れて冷蔵庫へ。1週間程度保存可能だ。

砂糖の量は、好みで調整する。関東風は、関西風より甘めに作ることが多い。大さじ6なら、かなり甘め。甘さ控えめが好みなら、大さじ4程度に。

関東風の手順

  • 鍋を熱する すき焼き鍋(または浅い鍋)を火にかける。牛脂を引いて、鍋全体に油を馴染ませる。
  • 割り下を注ぐ 鍋に割り下を注ぐ。量は、材料が半分浸るくらい。多すぎると、味が薄まる。
  • 牛肉を入れる 最初に牛肉を入れる。肉は重ならないよう、一枚ずつ広げる。色が変わったら、すぐに食べてOK。
  • 野菜と豆腐を入れる 長ネギ、春菊、白菜、椎茸、焼き豆腐、しらたきなどを入れる。火の通りにくいものから順に入れる。
  • 煮ながら食べる 火が通ったものから、順番に取り出して食べる。溶き卵につけて食べるのが定番。
  • 割り下を追加 煮詰まってきたら、割り下を追加する。最後まで、味が濃くなりすぎないよう注意。

関東風のメリット

  • 簡単:割り下を用意すれば、後は煮るだけ
  • 失敗が少ない:味が決まっているため、ブレが少ない
  • 大人数向き:一度に大量の材料を煮られる
  • 時短:調理時間が短い

関東風のデメリット

  • 肉の焼き感が少ない:煮るため、焼いた香ばしさがない
  • 味が画一的:すべてが同じ味になりがち
  • 割り下を作る手間:事前の準備が必要

関東風に合う和牛

関東風は、煮込むため、霜降りが多すぎると脂が溶け出しすぎる。A4ランクの肩ロースや、リブロースの薄切りが最適。モモ肉も、煮ることで柔らかくなり、美味しく食べられる。


第三章 - 関西風すき焼き 完全解説

特徴 - 焼いて、味付け、本来の姿

関西風すき焼きは、「焼く」ことから始まる。割り下は使わず、砂糖と醤油を直接肉にかける。この豪快なスタイルが、関西風の真骨頂だ。

関西風の手順

  1. 鍋を十分に熱する すき焼き鍋を強火で熱する。煙が出るくらい、しっかりと。
  2. 牛脂を引く 牛脂を鍋に押し当て、全体に油を引く。この牛脂が、肉の風味を増す。
  3. 牛肉を焼く 肉を一枚ずつ、鍋に広げる。重ねない。強火で焼き、美しい焼き色をつける。
  4. 砂糖をかける 焼いている肉の上に、直接砂糖をかける。砂糖の量は、肉の枚数に応じて。一枚あたり、小さじ1程度。
  5. 醤油をかける 砂糖が少し溶けたら、醤油を回しかける。ジュワッと音がして、香ばしい香りが立ち上る。
  6. 肉を返す トングで肉を返し、反対側も軽く焼く。砂糖と醤油が絡んで、照りが出る。
  7. すぐに食べる 焼けた肉は、すぐに取り出して食べる。溶き卵につけて。この、焼きたてを食べることが、関西風の真髄。
  8. 野菜を焼く 肉を食べ終わったら、鍋に残った肉汁に、野菜や豆腐を入れる。焦げ付くようなら、少量の酒や出汁を加える。
  9. 肉と野菜を交互に 再び肉を焼き、また野菜を加える。この繰り返しで、最後まで楽しむ。

関西風のメリット

  • 肉が美味しい:焼くことで、香ばしさが加わる
  • 味の調整が自在:砂糖と醤油の量を、その都度調整できる
  • 焼きたてを食べる贅沢:常に最高の状態で肉が食べられる
  • 本来のすき焼き:「焼く」という原点を守る

関西風のデメリット

  • 手間がかかる:肉を一枚ずつ焼くため、時間がかかる
  • 技術が必要:焼き加減、味付けのタイミングに熟練が必要
  • 少人数向き:大人数では、焼くのが追いつかない
  • 焦げ付きやすい:火加減を間違えると、すぐに焦げる

関西風に合う和牛

関西風は、焼くため、霜降りの美味しさが最大限に引き出される。A5ランクのサーロインやリブロースが最適。脂の甘みと、焼いた香ばしさが調和し、至福の味わいとなる。

第四章 - 徹底比較表

項目

関東風

関西風

調理法

煮る

焼く

味付け

割り下

砂糖と醤油

手順

割り下→肉→野菜

肉を焼く→砂糖→醤油→野菜

肉の状態

煮た肉

焼いた肉

食べ方

煮ながら取り出す

焼いてすぐ食べる

難易度

簡単

やや難しい

調理時間

短い

長い(肉を一枚ずつ)

向いている人数

大人数OK

2〜4人が最適

味の特徴

甘めで均一

香ばしく、濃厚

最適な肉

A4、肩ロース、モモ

A5、サーロイン、リブロース

卵の使い方

つけて食べる

つけて食べる(同じ)

締めの楽しみ

うどん

うどん(同じ)

第五章 - 材料の選び方と切り方

共通の材料

すき焼きに使う材料は、関東も関西もほぼ共通だ。

牛肉

  • 部位:リブロース、サーロイン、肩ロース、モモ
  • 厚み:1mm〜2mm(薄切り)
  • 量:一人あたり150g〜200g

野菜

  • 長ネギ:斜め切り、3〜4cm幅
  • 春菊:株を分け、長さ5〜6cm
  • 白菜:ざく切り、3〜4cm幅
  • 椎茸:石づきを取り、飾り切り
  • えのき:石づきを取り、ほぐす

その他

  • 焼き豆腐:8等分程度
  • しらたき:食べやすい長さに切り、下茹で
  • 麩(生麩または車麩):水で戻す
  • 牛脂:適量

溶き卵

  • 一人1〜2個
  • 軽く溶きほぐす(混ぜすぎない)

関東風特有の材料選び

関東風は、煮るため、火の通りやすい材料を選ぶ。また、煮崩れしにくい、焼き豆腐や厚めに切った野菜が好まれる。

関西風特有の材料選び

関西風は、焼くため、肉の質を最重視。A5ランクの霜降り肉が、真価を発揮する。野菜は、肉を食べた後の箸休め的な位置づけ。

第六章 - それぞれの流儀を極める

関東風を極めるコツ

コツ1:割り下は濃いめに作る
煮ていくうちに、材料から水分が出て薄まる。最初は「少し濃いかな」と思うくらいが、ちょうど良い。

コツ2:肉を煮すぎない
肉は、色が変わったらすぐに取り出す。煮すぎると固くなる。サッと煮て、半生くらいで食べるのが通の食べ方。

コツ3:灰汁をこまめに取る
煮ていると、灰汁が出る。これを取らないと、雑味が出る。こまめに灰汁を取ることで、上品な味に。

コツ4:しらたきは肉から離す
しらたきに含まれる成分が、肉を固くするという説がある。科学的根拠は薄いが、念のため離しておくと良い。

コツ5:割り下の追加は少量ずつ
一度に大量の割り下を追加すると、味が薄まりすぎる。少量ずつ、味を見ながら追加する。

関西風を極めるコツ

コツ1:鍋を十分に熱する
鍋が冷たいと、肉が焼けずに煮えてしまう。煙が出るくらい、しっかりと熱する。

コツ2:砂糖は躊躇なく
関西風は、思い切って砂糖をかけることが大切。少なすぎると、甘みが足りず、醤油辛くなる。

コツ3:肉は重ねない
肉を重ねると、均一に焼けない。一枚ずつ、丁寧に焼く。これが、関西風の美学。

コツ4:焼き色を楽しむ
肉に美しい焼き色がつくまで待つ。この焼き色こそが、香ばしさの源。

コツ5:野菜は肉の後
関西風は、まず肉を楽しむ。野菜は、肉を食べた後の口直し。この順序を守ることで、肉の美味しさを最大限に味わえる。

第七章 - 溶き卵の流儀

なぜ卵をつけるのか

すき焼きを溶き卵につけて食べるのは、日本独特の文化だ。その理由は、複数ある。

  1. 温度を下げる:熱々の肉を、卵でコーティングすることで、適温にして食べやすくする。
  2. まろやかにする:濃い味付けの肉を、卵のまろやかさで包み込む。味がマイルドになる。
  3. 栄養価を高める:生卵の栄養素を摂取できる。
  4. 食感を楽しむ:卵のトロリとした食感が、肉と絡み、独特の味わいを生む。

卵の扱い方

新鮮な卵を使う 生で食べるため、必ず新鮮な卵を。賞味期限を確認し、割ったときに黄身が盛り上がっているものを選ぶ。

軽く溶く 卵は、軽く溶きほぐす程度で。混ぜすぎると、泡立ってしまい、肉に絡みにくくなる。箸で10回程度、切るように混ぜるのが理想。

一人一皿 衛生面から、卵は一人一皿用意する。共有は避けたい。

途中で継ぎ足す 卵が少なくなったら、継ぎ足すか、新しい皿に変える。

関東vs関西の卵文化

興味深いことに、卵の使い方については、関東も関西も同じ。すき焼きを溶き卵につけて食べるのは、日本全国共通の文化なのだ。

第八章 - 締めの楽しみ

関東風の締め - うどん

すき焼きの後は、うどんで締める。これも関東・関西共通の文化だ。

手順

  1. 肉と野菜を食べ終わったら、残った割り下(または肉汁)にうどんを入れる
  2. うどんが温まったら、溶き卵につけて食べる
  3. 甘辛い味が染み込んだうどんは、絶品

関西風の締め - うどん

関西でも、締めはうどん。ただし、関西風は煮汁が少ないため、出汁を追加することが多い。

手順

  1. 鍋に残った肉汁に、出汁を追加
  2. 醤油と砂糖で味を調える
  3. うどんを入れて煮る
  4. 溶き卵につけて食べる

その他の締め

  • ご飯:残った汁にご飯を入れ、雑炊風に
  • :お餅を入れて煮る。正月の残り餅の活用に
  • ラーメン:若い世代に人気。意外と合う

第九章 - 地域による変化

名古屋風 - 味噌すき焼き

名古屋では、味噌を使った「味噌すき焼き」が存在する。赤味噌と鶏肉を使った濃厚な味わいが特徴。

北海道風 - ジンギスカン風

北海道では、すき焼きよりもジンギスカンが主流だが、すき焼きを作る際は、ジンギスカン鍋を使うこともある。

九州風 - 甘め

九州、特に鹿児島では、非常に甘い味付けが好まれる。砂糖の量は、関東・関西の1.5倍〜2倍になることも。

沖縄風 - ポーク入り

沖縄では、牛肉だけでなく、豚肉(ポーク)を入れることもある。独特の食文化が反映されている。

第十章 - どちらを選ぶべきか

関東風を選ぶべき人

  • 簡単に作りたい人

  • 大人数でのパーティー

  • すき焼き初心者

  • 時間をかけたくない人

  • 甘めの味付けが好きな人

関西風を選ぶべき人

  • 肉の美味しさを最大限に味わいたい人

  • 少人数での贅沢な食事

  • 料理を楽しみたい人

  • 時間に余裕がある人

  • 香ばしさを重視する人

折衷案 - ハイブリッド方式

最初は関西風で肉を焼いて楽しみ、途中から割り下を追加して関東風に切り替える。この方法なら、両方の良さを味わえる。

  1. 最初の2〜3枚は、関西風で焼いて食べる

  2. 肉の美味しさを堪能したら、割り下を追加

  3. 以降は関東風で、野菜と一緒に煮ながら食べる

この方式が、実は最も満足度が高いかもしれない。

第十一章 - 失敗しないためのチェックリスト

関東風の失敗を防ぐ

  • 割り下が薄い → 濃いめに作り、途中で調整
  • 肉が固い → 煮すぎない。色が変わったらすぐ取り出す
  • 味が濃くなりすぎた → 出汁や水を追加
  • 焦げ付いた → 火を弱める。割り下が少なすぎる
  • 野菜が煮崩れた → 火の通りにくいものから順に入れる

関西風の失敗を防ぐ

  • 肉が焼けない → 鍋を十分に熱する。牛脂をしっかり引く
  • 焦げ付いた → 火を少し弱める。砂糖が焦げやすいため注意
  • 味が薄い → 砂糖と醤油を追加
  • 味が濃い → 次の肉から、量を調整
  • 野菜が焦げる → 少量の出汁や酒を追加


すき焼きを堪能できる特別なカタログギフト

「選ぶ楽しみ」 を贈る特別なカタログギフト「Wagyu Selection OGAWA×onion」


  • 今回ご紹介した「松阪牛」をはじめとする4種の厳選極上和牛と、焼肉・すき焼き・ステーキなど10つの商品カテゴリーを組み合わせた計37種から選べるカタログギフト

    各10,000円

    例)
  • すき焼き(肩・モモ)    松阪牛 
  • すき焼き(肩・モモ)  前沢牛 
  • すき焼き(肩ロース・ロース )  常陸牛 
  • すき焼き(肩ロース・ロース )  黒毛和牛 


結論 - 二つの文化、等しく尊い

関東風と関西風。どちらが優れているかという問いに、答えはない。それぞれが、長い歴史の中で磨かれ、完成された料理だ。

関東風は、手軽さと安定した美味しさで、家庭の食卓を豊かにする。関西風は、肉の美味しさを極限まで引き出し、贅沢な時間を演出する。

大切なのは、その時の気分、人数、そして目的に応じて、最適な方法を選ぶこと。あるいは、両方を試し、自分だけの「すき焼き」を見つけること。

次回、すき焼きを作る際には、ぜひこのガイドを参考にしていただきたい。そして、関東と関西、二つの文化が育んだ、すき焼きという料理の奥深さを、存分に味わっていただきたい。

あなたの鍋から、最高のすき焼きが生まれることを願っている。

 

創業1938年の「目利き」が厳選。
松阪牛など4銘柄から“相手が選べる”極上和牛ギフトをご存じですか?

大切な方への贈り物、本当に喜ばれるものを選べていますか?
「Wagyu Selection OGAWA×onion」は、食肉のプロフェッショナル「小川グループ」が厳選した、松阪牛をはじめとする4大銘柄牛のカタログギフトです。

受け取った方は、ステーキやすき焼き、希少部位など約40種類のメニューから「今一番食べたいもの」を自由に選べるため、好みを外す心配がありません。 住所を知らない相手にもLINEやメールで手軽に贈れる「eギフト」と、手渡しに最適な「ギフトカード」の2種類をご用意しました。

さらに現在、発売を記念して購入者全員にAmazonギフト券1,000円分を還元するキャンペーンを実施中です(2026年1月末まで)。
「選ぶ楽しさ」という贅沢を、あなたの特別なギフトに。

一覧に戻る